Beranda / ファンタジー / 月光聖女~月の乙女は半身を求める~ / 禁忌は甘い香りと棘を持っている。薔薇のように 1

Share

禁忌は甘い香りと棘を持っている。薔薇のように 1

Penulis: 46(shiro)
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-25 06:00:02

 月が真上に登ると月光聖女たちは神殿の中での内役に服す。神殿内の月光力を補うため、祭事用とは別に摘んである光雫華の蕾を要所要所に配置し、神殿最奥の宮で眠りながらも月光界を守護する力を放出しているという月光母に祈りをささげ、祭で使う布や小物類を造る作業にとりかかったり、あるいは月風の窓と呼ばれるスリガラスでできた窓の前に立って、風が運んでくる月光界の人々の願いや訴えに耳を傾け処置を講じたりするのである。

 マテアもまた、いつものように針に色硝子の小さな玉を通して、月光神の祭儀用マントに刺繍をほどこしながら、同じ部屋で作業に順じている聖女たちと雑談をしていたが、その胸の奥底では朝のサナンの言葉について考え続けていた。

『<リアフ>は同等のものでない限り融合してはくれない』

 その不安は、いつも心のどこかにあった。皆のようにラヤとの約束を口に出せずにいたのは、それがひっかかっていたからだ。

(ありえないわ)

 そう思い、無理やり納得していた。納得することで、ごまかそうとしていた。合一を申しこまれたとき、<リアフ>の差に、どうしても悲観的にしかなれなかった自分に、ラヤも気にすることはないと言ってくれたし、彼に見つめられ、そう言われると、なんだか本当に些細な事でしかないように思えてきて……そのときの彼を思い出すことで、強引に融合できなかった場合に通じる考えを断ち切っていた。

『それはあくまであなたたちの『期待』でしかないんでしょ。現実の前では、個々の希望が常に叶うとは限らないっていうのは、多々あるわ』

 サナンの言葉は真実だ。どんなに目をそむけ、考えないようにしていても、変わらない。

 でも……!

 なら、どうすればいいというのか。自分の<リアフ>が脆弱なのは知っている。ラヤどころかイリアにも、エノマにだってかなわないかもしれない。そんな自分が、到底サナンに太刀打ちできるはずがない!

「つっ……」

 刺繍針が指を突いた痛みに、我に返って声を上げた。血がついたら大変と、素早く布の下にあてがっていた左手を引き寄せ、傷の具合を見る。感情にかられ、つい思いきり突きこんでしまったせいで、人差指の傷はみるみるうちに血珠を盛り上げた。

「ごめんなさい、手当てをしてくるわね」

 隣で同じく刺繍を施している聖女に断って席を立ったマテアは、しかし医療の部屋へは向かわずに、サナンのいる、ここからは少し離れた供儀神殿へとまっすぐ向かって行った。

 サナンは近隣の村から直接届く貢ぎ物の荷解きや管理を手配する役割のはずである。はたして供儀神殿へ行くと、サナンは帳面をとる年少の月光聖女を横に、今朝届いた分の荷物の中身を読みあげながら個々の保管場所を指示している最中だった。

 心の強さそのままに力強い、白銀の輝きを放つ<リアフ>に包まれたサナンは目立つので、たとえ広い保管庫の中で膨大な荷物の山に邪魔されようともどこにいるのかすぐに感じとれる。おそらくは、ラヤの<リアフ>と同じくらいの強さが、彼女の<リアフ>にはあるのだろう。

 高台の上から箱の中身を見下ろしている彼女の後ろ姿を見上げながら、マテアはぎゅっと手を握りこんだ。

「あら、マテアいたの。気付かなかったわ」

 箱から顔を上げ、自分を見つめるマテアに気付いたサナンは、朝の出来事などなかったかのように親しみある笑顔で高台から降りるとマテアへと近付いた。

「どうしたの? こんな所へきて。あなたはマントを縫ってるんじゃなかったかしら」

「ええ、そうなんだけど……」

 乾いた唇から、どうにか返事を押し出す。

 なんと続けるべきか。ここへきて、彼女の姿を見つけるまでは今にも口から飛び出しそうだった言葉が、いざ彼女を目の前にした今になってすっかり胸の奥で畏縮してしまって、出てきてくれない。

「その手、どうかしたの?」

 ためらいに、胸元へ引き寄せたマテアの右手の甲が赤くこすれているのを見つけたサナンの目が、驚きに丸くなる。

「ああ、これ……」

 すっかり傷のことを忘れきっていたマテアは、問われてあわてて両手を開く。マテアの右手が赤いのは、両手をこすりあわせた際に左手の指から流れた血がついたせいだが、左の指の方は、よほど深く突いてしまったのか、出血がまだとまっていなかった。

「まあ大変。わたしの所より医療室へこそ行くべきなんじゃない?」

 その言葉にマテアはあわてて首を横に振った。

「いいのよ、これくらい。痛みもないし。針傷だもの。どうってことないわ」

「そう?」

「ええ」

 頷く。実際マテアの胸はこの程度の痛みなど受け入れる余裕もなく、自分ではどうしようもないほど次から次へと様々な感情の高波が打ち寄せ、互いにぶつかりあって、およそ平静になる術を見出せないでいたのだ。

「話があるの」

 すうっと息を吸いこみ、とめて、マテアは小さく告げた。

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi

Bab terbaru

  • 月光聖女~月の乙女は半身を求める~   月の乙女は魂をとり戻す。永遠に 6

     愛されなくてもいいなんて、嘘だ。 そばにいるだけでいいなんて、きれいごと。いつだって、愛されることを望んでいた。 おれを愛してくれ。 おれだけを見てくれ。 おれがきみだけのために生まれてきたように、きみが、おれだけのために生まれてきたのだったらよかったのに……。「……い、やあああああああああーーーーーーーーっ!!」 永遠と思えるほど引き延ばされた一瞬。 マテアは絶叫し、レンジュの元へ走った。 地に横倒れとなった彼の身を起こし、仰向ける。固く目を閉じたレンジュに意識はすでにない。 刃を刺したままでは死ぬのに時間がかかる。それをよく知っているレンジュは刺した瞬間刃を横に引きながら抜きとっていて、傷口からはどくどくと音をたてて大量の血があふれ出ていた。「いや……いやよ、レンジュ……」 マテアは震える両手を傷口にあて、血をなんとかして押し戻そうとする。己を染めていくレンジュの血という現実に、全身が痺れた。 外界を知覚する、あらゆる感覚がその機能を麻痺させ、真っ暗な闇に頭から飲まれていくようだった。 強すぎる動悸は、反対に心臓そのものがなくなってしまったような静寂と空洞を作り出す。 がちがちと奥歯が鳴り、涙があふれて視界がぼやけた。現実であると認めたくないあまり、気が遠くなりかける。「いや……。 おねがい、目を開けて……死なないで……」 本当は、わかっていた。レンジュを殺せないのは、自分の身勝手で他者の命を奪つことが許せないばかりではないこと。それを、恰好の口実にしていた。 認めたくなかったのだ、彼に意かれていることを。 自分が愛しているのはラヤだと、必死に思いこもうとした。 彼をサナンに奪われたくなくて、その一心で禁忌を犯してまで地上界

  • 月光聖女~月の乙女は半身を求める~   月の乙女は魂をとり戻す。永遠に 5

     ラヤは嘘をつかない。 彼の言葉にも気持ちにも偽りはなく、きっと彼はその言葉通り、いつもマテアのそばにいてくれるだろう。彼の心のように透明で輝かしい<魂>でマテアを包み、マテアの心が常に穏やかであるよう尽くしてくれるに違いない。「帰りたい」 ぽつり。言葉が口をついた。「帰りたいわ、ラヤ。ずっとそう思ってた。月光界に帰りたい、って」 皆のいる、あの草原に。地上界も、レンジュも知らなかった、あの穏やかな暮らしに……。「そうだね。帰ろう。今すぐつれて帰ってあげる」 ふわりとラヤが宙に浮かび上がる。 さあきみもと、促すようにマテアに手を差し伸べたそのとき。マテアは背後に人の気配を感じて振り返った。 そこにいたのは、眠っているはずのレンジュだった。いつからそうしていたのか、天幕の入り口の柱に手をついて、じっとこちらをうかがっている。 峠を越えたとはいえ熱は下がりきっていないし、菌が完全に消滅したわけでもない。これで体力が落ちれば再び繁殖をはじめてその猛威を奮うだろうし、外の風にあたって別の菌に感染するということも十分あり得る。 傷口自体、うっすらと膜が張っただけで、少し衝撃を加えれば、ぱっくりとまた口を開けてしまうだろう。 そんな体で立って歩いたと知って、マテアの顔から一気に血の気がひいた。「レンジュ! だめよ、天幕の中へ戻って!」 ラヤの誘導に従って差し出していた手を引き戻して、レンジュに正面を向く。 レンジュの手に、銀の刃のきらめきを見たのはその刹那だった。『ルキシュ……。なぜかな。正気をとり戻して以来、きみの苦しげな心の声が響いてくるんだ。 きみがおれの中に入った<魂>とやらをとり戻そうとしてやってきたということも、それができなくて悲しんでいることも……』 きみは、優しい人だから。命が失われることの意味を、誰よりもよく知ってるから。「ああレ

  • 月光聖女~月の乙女は半身を求める~   月の乙女は魂をとり戻す。永遠に 4

     後半、温かみに欠けた厳しい声音や、非難するような視線がちくちくと肌を差し、どうにもいたたまれなくなって、逃げ出すようにマテアは岩場を後にした。 気付かれない程度にそっと顧みると、ユイナの想い人は先までと変わらない場で立ちつくしている。 いやな予感が胸で渦巻いていた。 彼が話していたのは、レンジュに関してのことだ。とても真剣な、こわい眼差しで、それでいて淋しげな話し方だった。 レンジュに、何かあったのだろうか。 そう思うと急にこわくなって、ぴたりと足が止まり、前へ進めなくなる。今行こうと後から行こうと結果は同じで、ただ知るのが早いか遅いかだけの違いでしかないというのに、逃げ出したいほど膝が震えた。 このとき、もしユイナが通りかからず、『ルキシュ! やっとみつけた!』 と、呼びかけてくれなかったなら、マテアはいつまでもそこに立ち尽くしていただろう。 袖を引かれる形で天幕へ戻ったマテアは、うっすらと目を開けて自分を見ているレンジュを見て、うっと喉を詰まらせた。じんわりと目尻が熱くなり、目が潤むのが自分でもわかる。 レンジュの目は、今度こそマテアを見ていた。『やあ……』 枕元へ膝をつき、彼が自分を見ようとするあまり気道をふさぐことのないよう、真上から覗きこんだマテアを見て、かすれた声でレンジュは小さく咳く。『無事、だったんだね……』 指一本動かすのも辛いだろうに、よかったと、自分のために笑みを作るレンジュの気持ちが素直に胸に響いて、マテアは目をつぶった。 ぽろりとこぼれた涙が、レンジュの胸にあたって弾ける。 死の淵から戻ってきたばかりで意識が完全に機能していないのか、涙をぬぐおうとマテアの頬に触れかけた手を、横からユイナが掴みとめた。『ね? 言った通り、彼女は無事だったでしょう? さあもういいわね。峠を越えたとはいえ、まだしばらくは病人なんだから、もう寝なさい』 母親のように言って、彼の手をさっさと上掛けの下に押しこむ彼女に

  • 月光聖女~月の乙女は半身を求める~   月の乙女は魂をとり戻す。永遠に 3

    どこへ行くともなく、マテアは歩いた。 体が借り物のように感じられ、ふらついて、足がもつれそうになる。転ばないようにと、そればかりに気を配って歩いていると、一度掘り返された後、再び埋められて盛り土になったようなものがいくつもある、変な場所に出た。(なにかしら、これ……) もっと近寄ってよく見てみようと一歩踏み出して、土のにおいに混じって嗅ぎとった死臭に足が凍りつく。 整然と並んだそれらの一番前に、花が飾られていた。その陰に隠れるように、少量の食べ物と水の入った容器。 突如、レンジュの姿が重なる。「ああーあ……」 マテアはじりじりと後ずさり、踵を返すや脱兎のごとく走り出した。 はらはらと涙がこぼれた。レンジュのところでもひとしきり泣いて、ぬぐわないでいたたため、頬がひりひりと痛む。一度息を吸いこみ、ぐっと腹に力を入れて止めるとおさまるかに見えたが、立ち止まった途端、またも熱いものがこみあげて、鼻の奥がツンとした。 西に傾いた月を見上げ、顔面を覆う。 声は出なかった。出ると思って開けた口からもれたのは、ちぎれるような息だった。 もしかすると、本当に泣きたいとき、声は失われるのかもしれない。 もう、何も考えることはできなかった。心臓も、臓腑も、何もかも、自分の内側がごっそりえぐり出されてしまったような、誕生して以来一度たりと感じたことのない、巨大な喪失感が、マテアを襲っていた……。『やあ。ここにいたんだ』 岩場で、一人ぽつんと膝を抱いて月を見上げていたマテアは、声に反応して振り向く。そこにいたのはハリで、マテアが自分に気付いたのを確認した彼は岩場まで歩を進め、同じように膝を抱きこんでその場に座った。 ここにきたということは、自分に何か用があるのだろう。 痺れた頭の隅でぼんやりとそう思って、出方を待つ彼女に向け、ハリは愛想笑いを浮かべようとし、うまくいかなかったのをごまかすように頭をか

  • 月光聖女~月の乙女は半身を求める~   月の乙女は魂をとり戻す。永遠に 2

     差し出された手に握られていたのは、いつかの夜、なくしてしまった腰帯だった。 それがなぜここに? どうしてユイナが持っていたの? 持っていたとすれば、それはあの場にいたレンジュであるはず。 ユイナはきっと、レンジュから預かっただけなのだろう。これからはかすかにレンジュのにおいがするから……。 では彼はもしかして、あれからずっとこれを持っていてくれたというの? においが移るくらい、ずっとそばで? どきん、と胸が鳴る。 自分の物が長く彼とともにあったと思うと、気恥ずかしさがこみ上げた。 差し出されるまま受けとった瞬間、ちりっと熱い、痺れるような痛みが指先に走る。裏を返してみて、そこに走った裂け目とにじんだ血の跡を目にした瞬間、ぎゅっと胸が縮んだ。 これはレンジュの血だ。 直感した瞬間、マテアは見えない何かに背を突かれたように走り出していた。 ああ、なぜ今まで思いつかなかったのだろう。レンジュは、あんなにも不義者であったわたしでも、命賭けて助けにきてくれる優しいひと。無事保護されたからと、一度も顔を見せないようなひとではない。 そして、先からの背筋を伝う冷や汗や、指先が痺れるほどの不安感。 レンジュに何かあったに違いないのに! はたして予感は的中していた。 焼け残った資材や盗賊からとり戻した荷物などで作られた天幕の群れの中に一際おそろしさを感じる天幕があって、吸いよせられたように入り口をくぐる。大きめのランプを用いて照らされた内側では、すっかり血の気をなくし、敷物の上でぐったりと横になったレンジュの姿があった。 医師らしき男が脇腹にあてていた布をはがし、薬剤を塗布したものととりかえ、少女が枕元で額に浮き出る汗をぬぐっている。 己を冒し続ける苦痛にわずかばかり歪んだ面。呼吸は浅く、ごくたまに眉端がぴくりと反応する以外、なんの動きもない。 死んだように横たわるレンジュの姿を容易には受け入れることができず、マテアは天幕の入

  • 月光聖女~月の乙女は半身を求める~   月の乙女は魂をとり戻す。永遠に 1

     夜明け近く、マテアは血痕を追ってきた隊の者によって発見された。 そのとき彼女は一人で、まるで彫像のように身じろぎせず雪の上に座していたという。 盗賊団首領・イルクの行方について訊いてみたが、もとより言葉の通じない彼女から何を聞き出せるわけもなく。知らせを受けて迎えにきたユイナに手を引かれて、隊まで連れ戻された。 不思議なことにイルクの物と思われる着衣一式が近くの雪上に落ちていたが、そこから立ち去った足跡はなく、このことに関して満足に説明できる者はいなかった。 ただし、衣服にはレンジュの報告通り左腹部に真新しい剣による裂け跡があり、大量の出血も雪上にみられることから、イルクの死はほぼ確定的とみられる。 それが、隊の出した結論だった。 ユイナに肩を抱かれて隊に帰りつくまでの記憶が、マテアにはなかった。 気付けば馬車の荷台に天幕を縫いあわせて作ったほろを被せただけの中に、毛布にくるまれて座っている。ふくらはぎの傷もあらためて手当てをされて、体中のすり傷に軟膏をぬりこまれていた。『ルキシュ、あなた本当に大丈夫なの? 顔色が悪いわ』 夕刻、食事を運んできたユイナが心配そうに覗きこみ、何度も訊いてきたけれど、とても疲れていて、応じる気になれなかった。 外界から隔離された荷馬車の中にいてもただよってくる、表の死臭に頭が重くふさがれ、ずっと気分が優れない。 外はずっと騒がしく、カラカラと車輪の回る音と、ざくざく土を掘る音があちこちでしていた。同じ調子でぶつぶつとつぶやき続ける長い声は、祈りのように思えて、マテアもそっと、いくつかの詩篇を口ずさんだ。 月光界に帰りたい……。 焼けつくように、そればかりを願う。 その思いはこれまでも常にマテアの中にあった。 心許せる友がいて。創世神リイアムとリオラムに仕え、その慈愛の光を受けながら祈りを捧げるだけで過ぎていた、平穏な日々。一喜一憂はあれど、自分で自分の心が把握できないほど乱れることはなかった。 ここへ来て、まだ

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status